今回は、企業のキャリア開発支援施策におけるキャリアデザイン研修の位置づけについて考えてみたいと思います。
キャリア開発支援施策の一環としてキャリアデザイン研修を実施されている企業も多いかと思いますが、研修実施後に良く聞かれる声として、「研修を実施した時は確かにモチベーションは上がったが、その後は続かない」、「研修で設定したキャリアプランも結局絵に書いた餅で終わってしまった」「1年後には自分がどんなキャリアプランを立てたのか忘れてしまった」等があります。
日常の場を離れ1日じっくり自分の強みや課題、価値観を内省し、これからのキャリアを考える機会としてキャリアデザイン研修は非常にマッチしており、これ以上のものはないと言えるでしょう。ワークショップ形式で実施されるため、周りのメンバーからの気づきや良い刺激も受けることができます。したがって自身の長期的なキャリアを考えるきっかけや動機づけとしては非常に優れている研修であると言えます。一方で、研修で設定したキャリアプランを企業内でどう実現していくかという観点に立つのであれば研修だけで全てをカバーすることは難しいと言わざるを得ません。企業は、大前提としてキャリアデザイン研修だけで自社のキャリア開発支援を効果的に運用することは難しいという認識を持つことが必要です。そのうえで、キャリアデザイン研修を自社のキャリア開発支援のスキームにどのように組み込んで行くということを考えていく必要があるでしょう。
では具体的な手法としてどのようなものが考えられるでしょうか。一番の軸として考えられるのは、キャリアデザイン研修での最終アウトプットを最大限活用していく方法です。
キャリアプランニングシートを設定しないキャリアデザイン研修はほぼ皆無かと思いますが、さきほど述べたようにキャリアプランニングシートが絵に書いた餅になってしまう大きな要因としては、研修と実際の職場とをつなげる仕掛けが不足しているからだと考えられます。
もちろん研修で設定するキャリアビジョンは3年後や5年後のありたい姿なわけですからこのまま何の仕掛けもなければ、設定して終わりということになってしまうわけです。そこで各社の人事のイベントにうまく組み込んでいく必要があります。
通常、キャリアデザイン研修は5年や10年スパンごとに実施するケースが多いため、その間にどのようなキャリアビジョンを設定して、今、自分の立ち位置としてはどのような位置にいるのかを確認する場が必要です。1年に1回は上司・部下でのキャリア面談を実施している企業も多いですが、話を聞いてみると異動希望の話だけで終わってしまっており、本質的なテーマである自身のキャリアをこの会社でどう実現していくのかといった話まではできていないことが多いようです。
この手の面談において研修で設定したキャリアビジョンを活用しない手はありません。その後の1回だけではなく、毎年、毎年、研修で設定したありたい姿に自分はどのくらい近づけているのか、足りない部分は何なのか、ということを毎年、振り返ることが重要です。毎年、毎年、自分が設定したキャリアビジョンをバージョンアップさせていくイメージです。
そして5年おき、10年おきに実施するキャリアデザイン研修では改めて一からキャリアビジョンを考える機会とするのです。上司も表面的な異動希望だけでなく、本人がなぜその部署を希望しているのかが分かり、もっと有益なアドバイスをすることができるようになります。
キャリアプランニングシートをどのように活用していくのかについては企業ごとに異なるかと思いますが、私見としては大きな制度を導入しなくても運用や工夫でカバーできるものであると考えます。たとえばある企業では社員証を入れるカードホルダーに自身のキャリアプランニングのサマリーを記載したものを入れて、周囲の会社のメンバーに知ってもらうという取り組みをしています。もっとシンプルにキャリアプランニングシートと企業の目標管理制度の目標をリンクさせるということも考えられます。また、同じ職場の課単位やグループ単位のメンバー同士でキャリアデザインのワークショップを実施することで、上司だけでなく同僚や先輩に自身のキャリアプランを知ってもらうという手法も有効です。
つまりは設定したキャリアプランについて、現実の職場の中でも常に本人や上司できれば同僚、先輩も含めて意識できる場を提供し、つなぎ合わせるということが重要になってくると考えます。そのよう観点で考えれば大掛かりな仕組みや制度はむしろ必要なく運用ベースで細かい仕掛けを積み重ねていった方が効果的でしょう。ぜひこのような観点で一度、自社のキャリア開発支援のスキームを見直してみてはいかがでしょうか。
ライトマネジメントのキャリア開発サービスは、企業向け研修のなかでも圧倒的に高い採用実績を誇るソリューションです。
組織内で自分の役割や期待されていること、強みを理解した上で、そのキャリアプランを行動計画に落とし込み、自発的な向上心を磨きます。また、経営環境の変化などにより、期待通りのパフォーマンスを発揮できない方に向けた再活性化プログラムもご用意。20~30代の若年層のほか、40~50代の中高年層の意識改革・行動変容に幅広く貢献しています。
キャリア開発のテーマを中心に、独学でも内省を深められるeラーニング版の研修コースもございます。
大手金融機関に入社。同社にて新規コールセンターの立ち上げのプロジェクトに携わるとともに、主に教育・研修等の企画、推進を10年あまり手がける。その後、株式会社ライトマネジメントジャパン(現マンパワーグループ)に入社し、人事制度のコンサルティングに一貫して従事している。人事制度の構築といったハード的な側面のコンサルテーションに加えて年代別のキャリアデザイン研修や上司向け部下のキャリア開発支援セミナー、新入社員研修、チェンジマネジメント研修、評価者研修といったソフト面の施策企画や実施にも幅広く携わる。
近年では低業績者に対する意識改革トレーニングや活性化のためのスキーム構築など未だ確立されていないテーマにも従事。また、クライアントニーズに合わせた研修コンテンツの作成に加えて、講師として実務に即した多岐にわたるテーマでセミナーも多数開催している。大手から中小企業まで幅広いクライアントに対するコンサルティング実績を持つ。豊富な経験にもとづいた制度面、運用面、トレーニング面からの体系的なアプローチには定評がある。