

PIP(Performance Improvement Plan:業務改善計画)と聞くと、「退職勧奨の前段階ではないか」というイメージを持つ社員や管理職は少なくありません。しかし本来のPIPは、伸び悩む社員の課題を特定し、再び活躍できるよう伴走する成長支援の仕組みであることが前提となります。こうした目的のもとでPIPを適切に運用するためには、会社として目的や支援体制、改善状況の確認方法など、導入前の準備が欠かせません。
目的が共有されていなければ、一貫した説明ができず、支援体制がなければ上司一人に判断が集中し、終了後の対応が未定なら会社としての結論に迷うことになります。
PIPの詳しい定義や導入の背景については、以下の記事で解説しています。PIPは組織力の成長に貢献!適切な指導とコミュニケーションが成功のポイント
本記事で、PIPの導入前に、自社でどこまで準備ができているかを確認する視点としてご一読ください。
PIPでは対象者の選定から評価、終了後の対応まで、複数の関係者が同じ考え方で動く必要があります。運用が始まってから決めようとすると対応が場当たり的になりやすいため、事前に一定の方針を持っておくことが重要です。また、PIPの結果は、その後の配置や役割、処遇などの判断につながる可能性もあります。対象者に適切な改善機会を提供するとともに、会社として一貫した説明や判断ができる状態をつくり、法務・労務上のリスクに備える意味でも、あらかじめ運用の前提を整えておく必要があります。
| ポイント | 確認しておきたいこと | 主な関係者 |
|---|---|---|
| 1 目的共有 | PIPを何のために行うのか、経営と認識を合わせているか | 経営陣・事業部・人事 |
| 2 選定基準 | なぜその社員が対象なのか、客観的に説明できるか | 人事・法務・上司 |
| 3 支援体制 | 上司一人に運用を背負わせない仕組みがあるか | 人事・上司 |
| 4 フィードバックサイクル | 途中経過を確認し、必要に応じてフィードバックができるか | 人事・上司 |
| 5 終了後のシナリオ | 達成・未達成それぞれの場合の対応を整理しているか | 人事・法務・上司 |
最初に確認したいのは、経営陣や事業部とのあいだで、PIPの目的・位置づけ、支援の範囲、改善が確認できなかった場合の判断について、あらかじめ認識をすり合わせているかどうかです。 。
PIPは、「対象者の改善を支援し、その改善状況を一定期間で確認する仕組み」です。 この認識がないまま始めると、人事と現場で支援の範囲や対象者への説明にばらつきが生じ、一貫した運用が難しくなります。PIPは「退職勧奨の前段階」というイメージを持たれることもあるため、PIPの目的はあくまで「改善」であると明確にし、関係者が一貫して説明できる状態にしておくことが重要です。
あわせて、改善が確認できなかった場合にどのような判断があり得るのかについても、この段階で経営陣とのすり合わせておく必要があります。
導入前には、少なくとも次の3つを確認しておきましょう。
2つ目に確認したいのは、なぜその社員がPIPの対象になるのか、客観的かつ公平な理由を用意できているかどうかです。「仕事が遅い」「スキルが足りていない」といったような上司の主観だけで選ぶと、本人への説明が曖昧になり、恣意的な選定と受け取られ、本人からの反発だけでなく、法務・労務上の紛争リスクにもつながる可能性があります。
事前に期待役割が共有されていたか、必要なサポートをしていたかなど、部門や上司起因の要素が無かったかどうかも、人事が客観的に確認する必要があります。
このような事前準備が無く、曖昧な印象や上司の主観だけで対象者を選定してしまうと、上司や人事への反発が出かねないことに加え、信頼性を欠いて納得感が無いままPIPに入ってしまうことになります。これでは、改善するものもしなくなってしまいかねません。
導入前には、少なくとも次を確認しておきましょう。
3つ目は、PIPの運用を現場の上司だけに任せきりにせず、組織として支える体制が準備できているかどうかです。実際の現場では、上司が厳しいフィードバックや改善に関する判断に自信を持てず、ハラスメントと受け取られることを恐れて面談を先送りしてしまうケースが少なくありません。実際に、PIP期間中に上司からの指導をハラスメントと捉え、社内のホットラインに訴えを起こしたというケースもあります。
支援体制は、PIPの運用を上司個人の力量や判断だけに依存させないための仕組みとして整えることが重要です。
まず、どのような状態になったら誰がどう関与するのか、人事と上司との間で判断の基準と手順を明文化しておきます。
具体的には、次のような項目をあらかじめ決めておくことで、上司が一人で抱え込む事態を防げます。
たとえば、「面談を3回重ねても改善が見られない場合は人事に相談する」といった基準を決めておくだけでも、上司が一人で先送りするかどうか迷う場面は大きく減ります。
対象者はもちろんのこと、上司も決してPIPに慣れているわけではありません。また、直属の上司だけで判断すると、対象者とのこれまでの関係性や評価が判断に影響する可能性もあります。PIP期間は、通常業務に加えて対象者と時間をかけて向き合うことが必要になるので、人事が相談窓口となり、上司がこうした対応を進められるようにサポートできる体制を用意します。
例えば、面談の設計や記録の残し方について実務面から支援するだけでも、上司の心理的な負担は大きく下がります。
また、フィードバックスキルの向上や客観的な状況判断のために、上司向けの研修を行ったり、外部のコーチをつけたりするなど、仕組みとしてサポートすることも非常に有効です。
このような仕組みをあらかじめ設計しておくことで、指導や判断のばらつきを防ぎ、本来の目的である部下育成につなげることにもなるのです。
支援体制に関しては、次のような点をあらかじめ明文化しておきましょう。
4つ目は、PIP期間中の改善状況を定期的に確認し、必要に応じて注意・指導し、支援やアクションプランを見直せる仕組みがあるかです。目標を設定して期間終了時に達成・未達成を判定するだけでは不十分です。改善が進まない背景には、本人の努力だけでなく、支援不足や組織変更などの外部・内部要因が影響している場合もあります。これを確認しないまま結果だけで判断すると、本人にとって納得しにくく、会社としても支援の妥当性を説明しにくくなります。
そのため、PIP開始時には、何をもって改善と判定するのかという測定指標や期待される行動を定めておき、その進捗を定期的に確認します。面談では結果だけでなく、期待される行動にどのような変化が見られるか、会社・上司が必要な支援を提供できているかなども確認し、必要に応じて対象者のアクションプランや上司の支援内容の見直しにつなげます。
PIP期間中のフィードバックサイクル
結果だけでなく、期待される行動の変化や会社・上司からの支援状況も確認します
例えば、改善が進んだ/進んでいないということを何をもって判断するのかを具体的に目標の中に予め測定指標として決めておくことはもちろんの事、その進捗を定期的に確認する仕組みを組み込んでおくことが重要です。
また、結果だけではなくプロセス(期待される行動の変化など)もレビューする面談を定期的に行い、必要に応じて対象者のアクションプランや行動プロセス、上司の支援内容の見直しにつなげることも重要です。
PIP開始時の告知面談では、人事・上司・対象者の間で、PIPを行う目的、目標と改善状況の確認方法、面談の頻度、支援体制などを文書化して共有しておきましょう。
最後に、PIP終了後、改善状況に応じてどのような対応を検討する可能性があるのかを、あらかじめ整理しておくことも重要です。PIPでは、一定期間の改善状況を確認した結果が、その後の配置や役割、業務内容、処遇などの検討につながる場合があります。
そのため、PIP開始時には、改善が確認できた場合と、改善が十分に確認できなかった場合に、どのような選択肢があり得るのかは整理しておく必要があります。終了時になって初めて対応を考え始めると、対象者への説明も後付けの印象を与えかねません。
・達成した場合
通常のマネジメント体制に戻す、一定期間フォローする、現職を継続するといった対応が中心になります。PIPの目標達成を昇格に直結させないことも重要です。
・未達成だった場合
一方、目標が未達成の場合は、次のような選択肢の可能性をあらかじめ整理し、対象者に提示しておきます。
どの対応を検討するかは、未達成という結果だけで決めるものではありません。設定した目標の妥当性や、期間中に提供した支援、改善状況などを踏まえて個別に検討する必要があります。そのうえで、あらかじめ選択肢を整理しておくことが、対象者への一貫した説明につながります。
PIPを、対象者の改善を支援し、その改善状況を適切に確認する仕組みとして機能させられるかどうかは、運用開始後の対応だけでなく、導入前にどれだけ設計を詰められるかにかかっています。制度や手順を整えるだけでなく、会社としてどのように運用するのかを整理しておくことが重要です。
対象者の選定、上司によるフィードバック、人事の支援、改善状況の確認、終了後の対応まで、随所で会社としての判断が求められます。だからこそ導入前に、目的共有・選定基準・支援体制・フィードバックサイクル・終了後のシナリオという5つについて、対象者や上司だけに任せきりにするのではなく、人事、経営陣、法務など様々な部門と連携して共通認識を持っておくことが重要です。
自社だけでの設計・運用が難しい場合は、外部の専門家の活用も選択肢の一つです。マンパワーグループでは、PIPのスキーム構築から上司向けトレーニング、運用支援まで一貫して支援しています。PIPの導入をご検討の際は「業績改善プログラム(PIP)導入コンサルティング」もあわせてご検討ください。